うちの会社では現在、5棟のアパート・マンションを所有しています。
しかし、その中でいわゆるテナント(店舗)付き賃貸物件は一棟もありません。
すべて、居住用途の普通のアパート・マンションです。
最高MAXは10棟まで増やしました、そのうち半分を売却したのですが、そのすべてが居住用の物件ばかりでした。
「テナント(店舗)付き賃貸物件」とは、1階部分がテナント専用スペース、2階以上の部分が住居専用スペースになっている賃貸物件のことです。
はっきり言って、僕はこのタイプの物件が好きではありません。
今後も、うちの会社でそのような物件を購入することはまずないと思います。
なぜ、僕はこのタイプの物件を避けるのか?
理由は簡単です。
それは不動産会社に勤めていたとき、テナントの仲介の仕事で散々苦労した経験があるからです。
商売をやってる人と接することは、とても大変なことです。
僕も彼らと同じような商売人のハシクレなので、彼らのことはなるべく悪く言いたくはないのですが、正直な本音としては「なるべく関わりたくない。」というのが本音です。
なぜ僕はそこまで商売をやる人を避けるようになってしまったのか。
やっぱり、相当嫌な想いをしたということなのでしょう。
仲介の仕事を通じて…
彼らはサラリーマンやOLではありません。
彼らは商売人です。
食っていくためには、家族を養うためには、なんとしても商売を成功させなければいけません。
彼らには給料もなければ、ボーナスもないんです。
彼らには何の保障もありません。
風邪をひいたり、ケガをしたりして仕事を休むことになってしまったら、収入はゼロになってしまいます。
そりゃ、目の色が変わりますって!
真剣になりますって!
商売をやる人はとてもピリピリした人が多いです。
イライラしてる人が多いです。
商売がうまくいってるときはピリピリやイライラはありません。
でも、すべての人が商売がうまくいくわけではありません。
なかには、頑張ってもがんばっても売上が伸びずに悩む人もいたりします…
そうなると、ますます怒りっぽくなります。
冷静さを失っていきます。
すると、当然いろいろなモメゴトに発展していきます。
トラブルが起こるようになります。
不動産会社の営業マンや大家さんにも怒りの矛先を向け、なかには怒鳴り散らす人もいたりします。
僕は仲介の仕事をしてゆくなかで、たくさんそういう場面に遭遇してきました。
そういう人たちを相手にしなきゃいけないテナントの賃貸の仕事は普通のお部屋探しをしている人を相手にする居住用賃貸の仕事よりもはるかに大変なんです。
部屋を借りる人と店舗を借りる人との違い
テナントに入る商売をやる人たちを相手にするということは仲介に入る不動産業者も大変ですが、大家さんも大変です。
店舗の場合、すっかり『オレの店だ。』という感覚になりますので、その空間が大家さんから借りてる空間である…ということをついつい忘れちゃう人がいるのです。
そうなると、大家さんに対していろいろと文句を言ってきたり、理不尽な要求をしてきたりするテナントも出てきたりしちゃうんです。
不動産会社でテナント仲介の仕事をやっていたときに僕も散々、こういう無理難題を言ってくる人に振りまわされて苦労した経験があります。
そういう経験を散々してきているので、どうしても店舗を構えて商売をする人たちに対して、良い印象を持てなくなってしまったのです。
自分も同じ商売人であるにもかかわらず…
店舗を構えて商売をする業態はさまざまありますね。
ラーメン屋、バー、居酒屋、焼き鳥や、カフェ、美容室、床屋、学習塾、雑貨屋、エステ、ネールサロン、etc…
すべての人たちが無理難題を要求してくるヘンな人たちではありません。
カンジのいい人もたくさんいます。
とくに商売がうまくいってる人なんかはいつもニコニコしていて、とてもカンジがいいです。
ところが商売がうまくいかず、いつもイライラしているような店主につかまったら最後、大家さんだろうがなんだろうが関係なく、そういう人は突っかかってきます。
商売人ですから、『いっぽんどっこ』なカンジの人が多いのです。
だから常識とかが通用しなかったりします。
契約書にうたっている・いないを説明しても、一切聞き入れず、ただ怒鳴り散らす人もいました…
気持ちは分からなくもないです。
彼らは何の後ろ盾もない孤独な立場に置かれています。
彼らはサラリーマンじゃないんです。
だから自分のことは全部、自分で守らなきゃいけないんです。
…そりゃ、ムキになったりはしますって!
でも、いくら商売をやる人の気持ちが理解できるからといって、好き好んで自分から関わり合いにはなりたくない…と僕は考えました。
だからもし自分がアパートの大家になったら、『絶対にテナント付きの物件には手を出さないようにしよう!』と心に決めました。
申し訳ないけど、ツライ想い・イヤな想いだけはしたくなかったので…
不動産会社勤務時代にテナントで散々苦労した
たしかにテナントの場合、入ってくる家賃も大きいです。
一般的にテナントの場合、居住用の家賃よりもはるかに高い家賃で募集するものです。
でも逆に言えばそれは、『出たとき(退去したとき)のダメージも大きい。』ということになります。
そして、テナント付きの物件をお持ちの方ならよく分かっていると思いますが、一般的に店舗というのは、居住用に比べてはるかに空室を埋めるのがむずかしいのです!
よっぽどいい立地条件だったら、たとえテナントであってもすぐに決まったりするケースもありますが、ほとんどが一回出てしまったらしばらく決まりません。
…それもイヤだなと僕は考えました。
その他に僕がテナントの人を相手にするのが、「しんどいなぁ」「イヤだなぁ」と思ったことを羅列してみます。
- 商売人は一筋縄ではいかない人が多い。だから居住用の人を相手にするよりも余計大変だ
- 居住用と違って店舗の場合、内装とか外装といった「工事」も絡んでくるので余計に面倒くさいことになる
- 工事に関することでオーナー負担を求めてくるテナントもいるので、モメごとに発展する恐れがある
- 退去する際の原状回復の件で、モメゴトに発展するケースが多い
- 業種によっては、臭いや、騒音、来店者の駐車場の問題などのことで、周辺の住民とトラブルになる恐れがある
- 明らかに『あやしい商売(いろいろな意味で…)』をしようとしている人と対応しなければならないリスクを負うことになる
- 居住用に比べて明らかに労力がかかり疲れる。その割にそれほど大きな収入が得られるわけではない
- 昨今の不景気のあおりを受けて、なかなか商売がうまくいかず、家賃を滞納するテナントが多い
僕はテナント仲介の仕事をしていて、何度も修羅場と遭遇してきました。
今でもそのことを思い出すたびに恐怖におびえることがあります。
完全にトラウマになっています。
人間はお金が絡むと豹変します。
まして商売をやる人の場合、その商売がうまくいかないと生きてゆくことができなくなってしまいますから余計に必死になります。
死に物狂いです。
その死に物狂いの必死さがときに狂気の沙汰にまで達してしまうケースがあるんです。
そして、ときには『暴力』が顔をのぞかせるケースもあります…
そんな想いは二度とごめんです。
だから僕は絶対にテナント付きの物件には手を出さないようにしているのです。
そのテナントが大手の会社の事務所だとか、ナショナル・チェーンのフランチャイズとかだったら、話は別です。
しかし、そういうテナントが既存の空き店舗に入居することはまずありません。
ほとんどの場合は、個人事業主の商売人の方々です。
彼らは必死です。
死に物狂いです。
ものすごい形相でこちらに向かってきます。
彼らはサラリーマンではないのです。
毎月、決まった日に給料が振り込まれるような世界の住人ではないのです。
その商売でメシを食っていかなきゃいけないんです。
家族を養っていかなきゃいけないんです。
そりゃ、必死になりますって!
だって、もしその商売がうまくいかなかったら自分を含めて家族全員が路頭に迷ってしまうかもしれないんですから…
必死にならざるを得ませんよね。
テナント付きの物件に手を出すということはそういう人たちを相手にするということです。
そのことは決して、忘れてはいけません。
よく考えないまま物件を取得してしまって、あとになってから『こんなはずじゃなかった…!』と言ってももう遅いのです。
僕も同じ商売人だからわかるんです。
商売人を相手にするってことは、とても大変なことなんです!
テナント賃料には消費税がかかってめんどくさい
不動産賃貸業というのは『家賃』をもらうことによって成り立ってるビジネス。
ただ、この家賃というもの。
居住の場合とテナントの場合とでは消費税の取り扱いが違ってきます。
なんとテナントの家賃には消費税がかかるのです。
賃貸にお住まいになったことがある人ならわかると思うのですが、毎月の家賃に消費税ってかかっていませんよね。
でも「人間が生活するのに必要不可欠な住まいに消費税を課税するのはおかしい」という話になり、1991年の税制改正によって非課税となりました。
しかしながら、テナント家賃の方は「人が住むためのもの」ではないため、消費税の課税対象となっています。
ですから、駐車場収入なんかにも消費税がかかります。
うちも月極駐車場を一箇所やっているのですが、そこでいただく駐車場代にはしっかり消費税が課税されています。
そして、この消費税。
不動産オーナーは場合によっては課税事業者となって消費税を納めなければならないかもしれません。
課税事業者になるか否かは2年前(2期前)の課税売上、もしくは前年(前期)の開始から半年間の課税売上から判断されることになります。
課税売上高が少ない場合は免税事業者となります。
- 詳しくはこちら
今回のショックが起きてますます「テナント付き物件は嫌だ」と思った
今回のショックが起こってわかったことは「やっぱり不動産投資としてみた場合、テナント付きの物件には手を出さない方がいいな」ということ。
ご存知のとおり、飲食店にせよ、何にせよ、今回のショックで多くの店舗運営者が痛手を被りました。
そしてみんな家賃の支払いに苦しみました。
中には店をしめる人も出ています。
余裕のあるオーナーは家賃の免除や減額に応じたりしていますが、もしもカツカツでやってるオーナーはそういうわけにもいかないでしょう。
そして、世間的には「家賃の減額に応じない大家さんが悪い」とう話になっています。
でも大家さんにも銀行の支払いがあるのです。
すべての大家さんが余裕をもって不動産賃貸業をやってるわけではありません。
テナントの賃料が入ってこなければ、店子さんといっしょに行き詰まってしまうオーナーも出てくるのです。
そんな中、僕のように居住用の物件しかやっていないオーナーはまだ傷は浅いと言えるでしょう。
もちろん、これからどうなるかわかりません。
住宅用の賃料も払えなくなる人もいっぱい出てくるかもしれません。
でもテナント付き物件を持っているオーナーよりは被害が少ないと言えるでしょう。
僕は今回のショックが起きて、「ああ、俺は居住用だけに限定して物件を選んでおいて良かったなぁ・・」と正直思いました。