不動産投資は物件が商売道具になりますので、当然その大事にメンテナンスをしてあげなければいけません。
でもそのメンテナンスにはおカネがかかります。
ちょこっとした修繕工事程度でしたら大した額にはなりませんが、大規模修繕工事ともなれば大事になります。
きちんとそれに見合うおカネを用意しておくか、もしも用意できない場合は金融機関からおカネを借りて工事を実行しなければなりません。
いずれにしても決して少なくない額のおカネが必要になります。
だから不動産投資をする人間は「〇年くらい経ったらだいたい〇百万円くらい必要なんだ」ということを念頭においてスタートしなければいけません。
『形あるもの』を扱う商売であることを忘れてはいけません。
形があり、手で触れることができるということは必ず劣化するということでもあるのです。
その劣化をどうするのか。
常に考えておかなければいけません。
これは非常に重要なことです。
この問題で行き詰まる大家さんが意外に多いのです。
不動産投資と株式投資の最大の違いはここにあります。
株式投資は経年劣化するようなものを扱っているわけではありません。
だからある意味、気楽です。
健全な不動産投資(アパート経営)をするためにもやっぱり修繕費は毎月きちんと積み立てておいた方がいいでしょう。
区分所有のマンションなどで修繕積立金というものがあるのはそういった理由からです。
「いずれ必ず大規模修繕工事をやらなければならない局面がくる」ということがわかっているから、それに向けて普段から準備しているのです。
アパート経営もそれといっしょです。
儲かったからといってそのすべてがフトコロに入るというわけではないのです。
建物のメンテナンスにかかる費用も頭に入れてきちんと積み立てておかないと、健全なアパート経営というものができなくなっていきます。
とくに「外壁の修理費用」などは足場を組みますので相当な金額になります。
それを見越して多めに積んでおいた方がいいでしょう。
そのことを考えると不動産投資というものが世間で言われているほどそれほど儲かるものではないということがわかると思います。
また、僕がいつも言っているとおり、「利回り10%以下なんてあり得ない」という理由もわかると思います。
ある程度の利回りを稼いでくれないと、とてもじゃないけどいろいろな支出に耐えきれません。
不動産投資の支出は修繕工事だけではありません。
空室の発生、滞納、広告料、固定資産税、etc・・・いろいろあります。
だから利回りの低い物件に手を出してはいけないのです。
きちんとそれ相当な手残りがあるような物件を取得しなければ行き詰まってしまうのです。
これから不動産投資をはじめようと思ってる人はぜひそのことを頭に入れておかなければいけません。
そうしないと不動産投資は失敗します。
そんなにラクなものではありません。
メリットもいっぱいあるけど、デメリットもいっぱいあります。
もしも手残りがチョボチョボしかない物件しか紹介されないのであれば、悪いことは言いません。
無理して不動産投資をやる必要はないと思います。
何か別のことを考えた方がいいと思います。
僕たち不動産オーナーが相手にするのは入居者さんだけではありません。
『建物』という厄介な存在も相手にしなきゃいけないのです。
建物はどうしたって経年劣化していきます。
どんどん古くなってゆくと当然のことながらあちこちが痛んできます。
毎日、雨・風・雪にさらされているのです。
当然、屋根や外壁はどんどんボロボロになっていきます。
水道管も古くなっていきますので冬になればしょっちゅう凍結したりするようになります。
新築物件や築年数が浅い物件ならばそれほどメンテナンスに気を配る必要はないかもしれません。
でも、古い物件の場合にはいつも「何か起こるんじゃないか…」とヒヤヒヤしてしまいます。
その代わり、新しい物件は利回りが低く、古い物件の方が利回りが高い。
本当は新しくて、なおかつ利回りが高い物件を取得できればいいのですが、そんないい物件を手放すような人はほとんどいません。
だけど、『磨けば光る』という物件に出会うことはあります。
つまり、「大規模修繕工事をすれば十分、風雪に耐えるような物件に蘇らせることがある物件」ということです。
僕も8部屋中1戸しか入居者のいない鉄骨造のボロボロ物件を700万円かけてよみがえらせた経験があります。
700万円という金額は確かに痛かったけれど、そのおかげで毎月安定したキャッシュフローをもたらせてくれています。
あくまでも参考程度にですが、大規模修繕工事をした場合の費用の目安をまとめてみました。
工事内容 | 時期の目安 | 費用の目安 |
---|---|---|
屋上防水の補修工事 | 12~18年ごと | 8,000~12,000円/㎡ |
外壁補修工事 | 10年~15年ごと | 1,000~30,000円/㎡ |
バルコニーや開放廊下の防水補修工事 | 10年~15年ごと | 6,000~8,000円/㎡ |
給水ポンプの取り替え | 12~18年ごと | 150~200万円 |
給湯器の交換 | 10~15年 | 8万円/台 |
エアコンの交換 | 10~15年 | 10万円/台 |
外壁工事をやるとなると(内容や物件の大きさにもよりますが)、だいたい300万円~500万円は見ておいた方がいいということがわかると思います。
屋上の防水シート工事費用だけでも約100万円~200万円です。
たしかに多額の費用負担です。
でも一回でもその工事をやってしまえばしばらくのあいだは大きな支出はありません。
これにより、長期保有に耐えうる物件になり、安心してアパート経営ができるようになります。
もしも「思ったよりも稼いでくれない…」という物件に手を出してしまったら、そんな物件におカネをかける必要はないかもしれません。
そういう物件は僕がここで言ってる「磨けば光る物件」ではありません。
そういう物件は早々に手放すことを検討するか、応急処置程度でごまかしごまかしいくかのスタンスでいいでしょう。
どんな物件でもなんでもかんでも大規模修繕をすればいいというわけではないのです。
「これはきちんメンテナンスさえすれば長期にわたって稼いでくれるいい物件だ」と思えるならば手を掛けるのもいいでしょう。
でも、やっても効果が得られないようなダメ物件に何百万円もおカネをかける必要はありません。
大規模修繕工事をしなければいけない物件とは、「手をかけさえすればものの見事によみがえり、そのことによってこちらに大きな収益をもたらしてくれる物件」です。
この判断を見誤ると大変なことになります。
世の中には立地条件も良くて間取りも悪くないのになぜか空室が目立つという物件があります。
その原因のほとんどが『アパートのオーナーが物件に手をかけていない』というものです。
磨けば光るのに放ったらかしにしているのですから、そりゃ入居者が決まらなくて当然です。
安定したアパート経営を実現するためには『ケチである』ということは致命的であったりします。
僕は大家さんの気前の良さと入居率は比例していると思っています。
僕が行った大規模修繕工事は建物の外から、部屋の中まで多岐にわたるものでした。
部屋の内部もフル・リフォームです。
キッチンも新品のものに取り替えました。
床も畳からフローリングに貼り替えました。
クロスも全部はがして新しいものを貼りました。
玄関のタイルもテラコッタ風のものに替えました。
給湯器も新しいものに変え、トイレもウォシュレットに変更しました。
それでも部屋の内部だけだったらそれほど大きな金額にはなっていません。
問題は内装ではありません。
問題は足場を組んでやらなければならない外装です。
屋根、外壁、階段、手すり、etc・・
ものすごく大掛かりな工事になりました。
文字どおり大規模修繕工事です。
外壁も高圧洗浄してペンキも塗り直しです。
サビが広がって危険な状態になっていた外階段も塗料の塗り直しです。
部屋のドアも全部、新しいドアに変更しました。
その大規模修繕工事をやったおかげでそのアパートはモノの見事に蘇りました。
もともとは昭和風の「〇〇荘」といったカンジのボロ・アパートだったのですが、お化粧をすることによってガラッと印象が変わりました。
もちろん一気に満室になりました。
「不動産投資ではやっぱりケチになってはいけないんだな」と、そのとき改めて思いました。
この大規模修繕工事の経理処理は勘定科目でいれば『修繕費』という項目になります。
経費として認められているわけですから、「全額、経費として落としてもいいだろう」とついつい考えてしまいますが注意が必要です。
「修繕費」という勘定科目のやっかいなところはここです。
こちらとしては修繕工事は「降って湧いたようなもの」「なくてもいいもの」「迷惑なもの」と解釈しています。
つまり『ネガティブなもの』として捉えています。
ところが税務署の見解はそうではありません。
彼らは修繕工事を物件の価値を高めた『ポジティブなもの』と解釈するのです。
「えぇー!?」という感じでしょ。僕も最初そのことを知ったとき、納得できませんでした。
でも、そうなのです・・
彼らは「修繕をした」「工事をした」ということは、『前の状態よりも良くなっているでしょ?』と考えます。
手をかけたんだからグレードアップしたんでしょ、と・・
たしかに言われてみればそうです。
前のボロボロの状態よりは良くなっています。
その工事をやったことによって「以前の状態よりも良くなった」ということは事実です。
そうやって手を加えたことにより建物の見栄えも良くなり、入居者も決まるようになった。
確かにそうです。
「修繕費」の取扱いについてどこまでが経費として認められて、どこまでが経費として認めてもらえないのか。
国税庁のホームページをみますと、このようになっています・・
- 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額
- 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額
- 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額
これを見ますと、すべての工事代金が物件の価値を高めるためにグレードアップをしたと税務署に解釈されるわけではないようです。
工事内容によっては経費として堂々と胸を張って落としてもいい場合もあるということです。
たとえば水道凍結などの突発的な工事は「通常の取り替えの金額」に合致しているでしょう。
しかし気を付けなければならないのは「工事にかかった費用なんだから全部経費として落としてもいいんだろう」と安易に考えてしまうことです。
税務署のほうから「これは経費として認められない」と指摘され、当初予定してなかった税金を払うハメになってしまった・・・なんてことも起こりえるのです。
だけど税務署から「経費としては認められないよ」と判定されたものは今後一切経費として認められないわけではありません。
そういった工事・修繕費は『資本的支出』として「減価償却」をすればいいのです。
つまりその年に「全額経費」としては落とすことはできないけれど、何年かに分けて経費として落とせばいいということです。
一般的には「20万円がボーダーライン」といわれています。
20万円未満であれば修繕費として単年度で経費化することができるというわけです。
20万円を超える場合は「資本的支出」とみなされる恐れがありますので注意が必要です。
ただし修繕費の取扱いは非常に複雑で、かつ微妙なところがあります。
見る人によってさまざまな解釈ができるものなので必ず会計士の先生と相談しながら会計処理をすすめていくようにしましょう。