読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

シンプルに。自由に。

北海道でアパートの大家業をしてます。4人家族。映画が好き。猫が好き。北の国でなまらのんびり生きてます。“every cloud has a silver lining.” したっけ!

映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の感想〜「ストレンジャー」とは誰のことを指しているのか?「パラダイス」とは何のことを指しているのか?


 ストレンジャー・ザン・パラダイス [DVD]

今回は1984年に公開され、世界中に一大センセーションを巻き起こしたジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』という映画を取り上げたいと思います。

知ってる人は知ってると思うけど、これはものスゴイ映画です。

ヴィム・ヴェンダースから譲り受けた「余ったフィルム」を使って、超低予算・超短時間で作られたのにもかかわらず、全世界に衝撃を与え、カンヌ映画祭も取っちゃったという。

インディーズ映画の金字塔」と言われている作品です。

1984年頃といえば、『E.T.』とか『スター・ウォーズ』とか『インディ・ジョーンズ』とか、いわゆるハリウッド超大作が世間を賑わせていた時代。

翌年には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の公開が控えています。

そんなイケイケな時代の中、まるで映画学校に通う学生が作ったような静かなモノクロの作品がそれらの超大作と同じくらい話題になったのです。

そういった意味においては、この作品の誕生は映画全体の歴史から見ても非常にエポック・メイキングな出来事だったのです。


大変地味な映画ですけど、死ぬまでに絶対に観ておかなければならない一本だと思います。

目次

作品概要

ストレンジャー・ザン・パラダイス [Blu-ray]

ストレンジャー・ザン・パラダイス [Blu-ray]

 
  • 監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
  • 音楽:ジョン・ルーリー
  • 出演:ジョン・ルーリー/エスター・バリント/リチャード・エドソン/セシリア・スターク
  • 上映時間:89分
  • 公開:1984年/アメリカ 

 

はじめてご覧になられる方はきっと驚くかもしれません。

「なんだ、こりゃ!」と思うかもしれません。

全部、“引きの画”で、ずっとカメラは固定されたまんま。

シーンごとに画面が真っ黒のカットバックで区切られるという斬新なスタイル。

オシャレといえばオシャレだし、奇妙といえば奇妙。

「アート」な感じの雰囲気が映画全体を包んでいます。


話のほとんどは狭くて何もない部屋の中だけで展開し、会話も可能な限り最小限に抑えられています。

ストーリーもほとんどあるんだかないんだか分からないようなストーリーで、本当に映画学科に通う学生が仲間内だけで作ったような印象を受けます。

今回、記事を書くにあたり改めて観たのですが、改めて観てもつくづく「とことんミニマムな映画だなぁ」と思いました。

『小規模』という言葉がこれほど似合う映画も珍しい。

でも、この『なーんもなさ』が映画の歴史を変えたのです。

こんな小さな映画なのにここには確実に『映画のマジック』としか言いようのない不思議なパワーが宿っています。

そのマジックを作り出すのに別に何十億というお金も、ハリウッド・スターも必要ないのです。

  • 金がないんだったら、アイデアと工夫だけでおもしろいものを作ってやる!

__この映画全体を貫いているのはそんなジム・ジャームッシュのスピリットです。

当時、若干24歳(!)

いかにもラモーンズや
テレヴィジョン、パティ・スミスといった「ニューヨーク・パンク」から影響を受けたニューヨーカーらしい精神です。

レビュー

f:id:orange345:20170414160512j:plain

主人公はウィリーと友人のエディ。

それからウィリーのいとこのエヴァ。

彼らは定職についていません。

ニューヨークの下町の安アパートに住んで、ポーカーなどの賭け事をやって食いつないでいます。

もちろん貧乏です。

だけど不思議なんです。

彼らはお金がないのに、ちっともみすぼらしくないのです。

それどころか、とってもオシャレでスタイリッシュ!

彼らを観ていると、「自ら進んでこういうライフ・スタイルを送っているんだな」ということがよくわかります。

『こういうライフ・スタイル』とはどういうライフ・スタイルなのか?

それを具体的な言葉にするのは非常に困難です。

でも誤解を恐れずにあえて言うなら、

  • アウトサイダーとして生きる

__ということかもしれません。

それが彼らの『美学』なのです。

お金とか地位とか名誉、そんなものよりももっと大切にしなきゃいけないものがあるんだ!

ひょうひょうとした彼らの暮らしぶりから垣間見えるのは、そんな潔さです。

このあえてアウトサイダーな生き方をしようとする人の気持ち、僕にはとてもよくわかるんです。

自分もそういうものにシンパシーを感じるから。

彼らの中には「絶対に成功してやるんだ!」といったような野心みたいなものは微塵もありません。

…というか、そういうものを毛嫌いしているような印象すら受ける。

その日その日を自由に自分らしく生きること。

それでいい。

それがいい。

金はないけど、オレたちには圧倒的な「自由」がある!

f:id:orange345:20170414160515j:plain

こうした生き方をする人は日本にはほとんどいません。

でも実は「アメリカにもほとんどいない」とジム・ジャームッシュはインタビューで答えています。

自由の国でありながら『本当に自由に生きようとする人』はほんのひと握りしかいないというこの現実。

ジム・ジャームッシュの映画に共通しているのは、そういうコンサバティブ(保守的)な空気に対するアンチテーゼの姿勢です。

アメリカといえば、なんといっても「アメリカン・ドリーム」の国。

上を目指して成功を手に入れた人から順にリスペクトされてゆくようなお国柄です。

そんなアメリカ社会からはみ出しちゃった人たちばかりが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』には出てきます。

でも、ここで不思議な逆転現象が起こるのです。


だんだん観ているうちに「そっちの方がいいのではないか?」と思えてくるのです。

たしかに彼らは貧しい。

社会的保証なんてものは一切ありません。

それは相当しんどい生き方なはずです。

  • 健康保険はどうなっているのか?
  • 老後はどうするのか?
  • 結婚は?
  • 子供は?

__いろいろ突き詰めて考えれば、いろいろ大変なことはあるはず。

だけど、彼らはそういったことと引き換えに圧倒的な『自由』を手に入れています!

自由こそが彼らにとって最大の財産なのです。

僕は彼らの生き方に100%共感します。

何を隠そう、それこそがこのブログの重要なテーマなのです。

ブログのタイトルには僕のそのような想いが込められています。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』というタイトルの意味

f:id:orange345:20170414160513j:plain

この映画を語る上で絶対に外せないのがスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの『I Put a Spell on You』という曲でしょう。

この曲はウィリーのいとこのエヴァがいつもかけている曲です。

すごく不思議な曲です。

ワルツのリズムなのに、ブルースのテイストとジャズのテイストがミックスされ、おまけにどこかフレンチっぽくもあり、ヨーロッパの匂いも感じさせる__。

『ミクスチャー』という音楽ジャンルがありますが、これこそ正真正銘のミクスチャーです。

いろいろな要素が渾然一体になっている。

アメリカの最大の魅力とは何か?

ニューヨークの最大の魅力とは何か?

それは言うまでもないことです。

  • ミクスチャーです。


ある意味においては、このスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの『I Put a Spell on You』という有名な曲はそれを体現した曲ともいえるのです。

実際ウィリーはハンガリーからやってきた移民という設定になっていますし、この映画はウィリーのいとこのエヴァがハンガリーからアメリカにやって来るところからスタートします。

ストレンジャー・ザン・パラダイス。

異邦人たちにとってのパラダイス。

このカッコいい映画のタイトルは「アメリカ」のことを現しているのです。

アメリカという国は移民たちによって支えられ、大きくなっていった国です。


エヴァにとって、アメリカとは憧れのパラダイスであり、新世界なのです。

ところが当時のアメリカはレーガン大統領の時代。

ジム・ジャームッシュがもっとも嫌悪するマッチョな価値観が大手を振るって歩いていた時代です。

そういった「大きいものはいいことだ」「強いものこそ正義だ」という空気が支配的な時代に、まるっきり正反対の価値観を提示するということ。

それはかなり勇気のいることだったはずです。

でも興味深いのは、そんな作品が全世界に一大センセーションを巻き起こしたという事実です。

まとめ

f:id:orange345:20170414160514j:plain

もし10年前にロナルド・レーガンが大統領になるなんて誰か口にしたら、それこそ抱腹絶倒ものだった。

でも事実そうなったということがいまだに受け入れがたい。  

__1984年当時のインタビューで監督のジム・ジャームッシュはこう答えています。

あの当時、アメリカは「強いリーダー」を求めていました。

言うまでもないことですが、それは現在も同じです。

しかもそれはアメリカだけじゃない。

野心的で、マッチョで、みんなをグイグイ引っ張っていってくれるような存在__。

今、多くの人が求めているのはそういうリーダーです。

経済的な意味でも、政治的な意味でも『強い父』を求めているのです。

80年代。

「勝てばいいんだ」「儲かればいいんだ」的な考えが支配的だった時代です。

この『ストレンジャー・ザン・パラダイス』という映画、そしてここに登場する人物たちはそういった価値観に対して静かに反旗を翻しています。

『生き方』や『ライススタイル』で抵抗しているのです。

そこがおもしろい!


ジム・ジャームッシュはこんなことも述べています。

野心や成功のために闘うなんていうアメリカ的考え方には僕はうんざりしているんだ。

僕はもっとリアルな奴ら、中心から外れてしまい、うまいこと調子を合わせられないアウトサイダーが好きだ。

汗水たらして成功を追い求めるなんてバカらしい。

お金儲けもどうだっていい。

でも自分にとって大切な何かを守ろうとする普通の奴ら。

それが僕のテーマなんだ。 

__これはスゴイ言葉です。

もし、今こういうことを言う人が現れたら、きっとみんなから「頭の中がお花畑」と揶揄されてしまうことでしょう。

でも、こういう『芯』みたいなものを持っていたからこそ、ジム・ジャームッシュという人は世界中でリスペクトされる映画監督になれたのです。

この映画から僕が感じるのはそういう若干24歳の映画監督の『気概』のようなものです。

このジム・ジャームッシュの言葉もあんなにオシャレで、スタイリッシュで、カッコいいアーティスティックな作品を作った人とは思えないほどの『熱さ』です。


『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の中には政治的なことは一切出てきません。

でも、だからこそ余計に政治的でもあるのです。

語らないことによって、語っている。

一本スジが通ってるいるのです。

金はない。

でも、ブレてない。

若い人もひっくるめて、今多くの人がコンサバ化(保守化)しています。

こういう時代だからこそ「権威」や「権力」に反発する人、そしてこういうことを堂々と言える人が求められているような気がするのは僕だけでしょうか?

 

したっけ!

この作品に関するみんなの反応

DVD&Blu-ray    

ストレンジャー・ザン・パラダイス [Blu-ray]

ストレンジャー・ザン・パラダイス [Blu-ray]

 

ジム・ジャームッシュ監督に関して

ジム・ジャームッシュ関連書籍

ジム・ジャームッシュ インタビューズ―映画監督ジム・ジャームッシュの歴史

ジム・ジャームッシュ インタビューズ―映画監督ジム・ジャームッシュの歴史

 
ジム・ジャームッシュ

ジム・ジャームッシュ

 
ジム・ジャームッシュ / アーリー・コレクションDVD-BOX (初回限定生産)

ジム・ジャームッシュ / アーリー・コレクションDVD-BOX (初回限定生産)

 

スクリーミン・ジェイ・ホーキンス『I Put a Spell on You』


Screamin' Jay Hawkins, I Put a Spell on You